愛されたことを確信してるから君はコロネをほどいて食べる
ふたりでも狼の群れでありたいし今日のところはわたしに賭けな
絶滅がほんとはすこし好きでしょう青いインクで書く年代記
人材と呼ばれることも呼ぶことも避けて送ったメールは長い
稲光 わたしの中にひとすじのあまりに深い井戸があること
がんばってそんなに写真を撮らないで 今年の桜わすれてもいい
吸っていた蜜の名前をおしえあう ツツジ、サルビア 会えてよかった
歩道橋揺れてるねって笑いあい手をつなぐだけの夜だったこと
傘を一部屋と数えてよいのならこの一部屋にふたりきり、今
春を選ぶように孤独を選んだの 詰将棋アプリをそっとひらく
そうおれは遠くで光るものが好き 生涯無縁の楽園が好き
苦しくはあるがいつでもポケットにコメダの豆菓子ほどのあかるさ
ルドンの青い花瓶くらいに自立したさびしい心を持ててうれしい
入れてやれなくてごめんなんて思わん網戸に絡むあざみの綿毛
オールトの雲の果てにも君に似た人はいないがそれでいいんだ
生命の歴史からヒトを削ぐごとくシュトレンは薄く薄く切るべし
つっかけと呼べば親しいビルケンで名残りのモッコウバラを見にゆく
自販機のヤクルトいつも売り切れて遠い他人のすこやかな腹
あの花が造花とわかるのがいやで俯き気味に過ぎるダイソー
右手だけ弾けるんだってムーンリバー聴かせてくれたことありがとう
この先は灯台守の眠る部屋 無口な者がパンを届けよ
街は風呂とカレーのにおい おれはいま怪獣だから人間が好き
耐熱のガラスのように怒りたい煮えるはらわた透かして歩く
あなたが樹ならば梢に龍ならばたてがみに触れ尊敬してる
愛よりもあさぎまだらの旅程とか聞かせてくれたら続いた道よ
暴かれてしまわぬように美術館程度に下げるわたしのルクス
やがて逝くならばこの目をオパールに変えていつかのあなたを飾る
比喩ならば楡になりたい教室のまんなかに生えて邪魔になりたい
虎を撫でる気持ちでおれを撫でてみて おいでドウダンツツジの陰へ
ばらが咲くための場所だと知ってからわたしのあばら骨は庭である
怒りには限りなどなしペパーミント世の果てまでも繁殖をせよ
「世に出る」と書いて出世ってじゃあここは世じゃなくて何 コピー機詰まる
くれぐれも喩えてくれるな愛を種にエバーフレッシュの鉢を蹴飛ばし
人以外を愛するときは人であるわたしの醜さに耐えている
深い谷に住む者である男女間賃金格差で名乗るとすれば
ジョー・マーチならば髪売る頃だろう退勤したての身に風をあて
雨の日の豊かな滅びを前にしてそれでも傘をほんとに持つの
鍵はここ そっとお帰り 人類はそれほどだけど人が好きだよ
今ならば百合は素直な花と知るあんなに香って見つかりたがって
アパートになるなら強気な名が欲しい アルカディアとか コーポアルカディア
人前で食事ができる同僚がセブンのドリアをあたためている
世界を問い世界に絡む蔦としてわたしの言葉をわたしは頼る
夢ならばあなたがりっぱな大人でもオオオニバスに乗せてあげたい
思いだせなくなるときがくるでしょう時計草はじめて見た場所も
墓っぽい場所なら心にもあって会いたいときに訪ねているよ
花でしか埋められぬ距離に猫がゆき猫への道にひな菊を敷く