第7話までのレビューはこちら。
改めて読み通してみると、本作はタイトルが秀逸だ。「してみることにした」という響きには、身軽さときめきと少しの緊張と、もし自分に合わなければやり方や方向性をいくらでも変えていいという可能性を広々と感じさせる。
一朗の挑戦は、絶対にできるようになるぞ! 習慣化させるぞ! と気負ったものではなく、ひとつひとつがささやかな「してみることにした」の連続である。化粧水をつけてみることにした、ていねいに洗顔してみることにした、ベースメイクをしてみることにした……。だからなおのこと、「してみることにした」が必ずしも「次のステップ」や「むずかしいこと」でなくても良いと示唆する「どこまでやりたいか…そこに気づくのすっごい大事だと思うんですよね」というタマのセリフ(第4話)が引き立つのである。
それを体現するように、メイクに対する登場人物たちの距離感や付き合い方は多様だ。
メイクをこよなく愛するタマは、新作をこまめにチェックしたり、メイクやスキンケアについて語るポッドキャストを配信している。一朗の仕事先の東は眉毛を整えている。おなじ会社に勤める真栄田は日焼け止めのみ。友人の長谷部は、自身の考える「男の身だしなみ」の範囲外をよしとしなかったため、一朗のメイクを一度はきつい言葉で突き放すが、のちにメイクを始めていることが明かされる。彼もまた、軽やかな「してみることにした」の道にいるひとりである。
長谷部が背負う「男らしさ」のプレッシャーは、メンズメイクと並ぶ本作のテーマのひとつだ。「してみることにした」の過程には、輝かしい成功体験だけでなく、恥をかくことや失敗することも大いに含まれている。メイクやスキンケアに限らず、じつは何事においてもそうであることを、長谷部が、ひいてはすべての「男らしさ」に悩む人々が実感していけたら、こんなにすてきなことはない。